【獣医師監修】老猫の老衰に自宅で気づけるサインと、家族がしてあげられること

愛猫と長く過ごすことができればできるほど、不安になってくるのが「老衰」ではないでしょうか。この記事では、長生き猫さんと暮らす中、愛猫のこれからを不安に思っている飼い主に向けて老衰の概要や猫の寿命、老衰のサインと、それに対して家族がしてあげられる対応をご紹介していきます。

猫のライフステージと老衰について

既に猫ちゃんを飼っている方はご存じかと思いますが、まずは猫のライフステージを見ていきましょう。また、老衰とはどういう状態を指すのかについても解説します。

猫のライフステージについて

猫のライフステージは子猫期(6ヵ月まで)、青年期(7ヵ月〜2歳)、成猫期3〜6歳、壮猫期(7〜10歳)、高齢期(11〜14歳)、老猫期(15歳以上)に分けられます。愛猫が老猫期に入ったら、老衰に向かっていることを意識して生活していくとよいでしょう。

猫の老衰の定義とは?急にはならないものなの?

ヒトの老衰の定義は、「高齢者で他に記載すべき死亡の原因がない、いわゆる自然死」と厚生労働省により定められています。猫も同様に、「加齢によって自然に死を迎えること」を老衰といいます。

老衰の原因は体を形成する細胞や組織が、老化に伴って徐々にその機能を維持できなくなるためと考えられています。

老衰から復活することはある?治療法は?

老衰に対する根本的な治療法はありません。ただ、皮下点滴や強制給餌、酸素吸入など苦しい症状を緩和したり、寿命を延ばす延命治療を必要に応じて施したりするケースもあります。

猫の寿命について

愛猫が高齢期や老猫期に入り、老衰について調べている方もいるでしょう。その中にはあとどれくらい愛猫と入れるのか気になる方も多いのではないでしょうか。

ここでは猫の寿命について解説します。

猫の平均寿命は15.62歳

猫の平均寿命はフードの高品質化や、医療技術の発達などにより伸びています。 2022年(令和4年)に一般社団法人ペットフード社団法人が行った、「全国犬猫飼育実態調査」では、猫の平均寿命は15.62歳という結果になったそうです。

参考:一般社団法人ペットフード協会「令和4年 全国犬猫飼育実態調査」

種類によって平均寿命は違う?

一般的に、平均寿命が長いのは混血種(ミックス)と日本猫です。
特に、日本で長い間繁殖されてきた混血種は、日本の気候や暮らしに慣れていて丈夫な個体が多いと言われています。
また、猫の長毛種と短毛種とでは、短毛種の方が長生きするといわれています。その理由としては、長毛種の方が毛球症を発症しやすいことや、純毛種が多いことなどがあげられます。

女性のようにメス猫の方が寿命は長い?

オス猫よりメス猫の方が長生きするというデータがありますが、このデータには根拠となる理由が明確ではないため、あくまで傾向としてとらえておくと良いでしょう。

猫の平均寿命についてはこちらでも詳しく解説しています。あわせてご覧ください。

関連記事:猫の寿命はどれくらい?種類や性別による違いと長生きの為の秘訣

これは老化!?7つのサイン

老衰のサインとしてはどんなものがあるのでしょうか。代表的なものを7つご紹介します。これらのサインが見られたときには、後ほど紹介するような対応をとることを考えていきましょう。

運動能力の低下

猫は、高い柔軟性と反射神経を持つことが特徴ですが、老化によって筋力や認知力が低下すると、運動能力も落ちる傾向があります。その結果、高い場所への昇り降りが下手になったり、ジャンプをためらうようになったり、足場が不安定な場所を嫌がるようになったりします。

あまり動かず、寝てばかりいる

老衰のサインとして最も多く、最も家族が気づきやすいのがこのサインです。老衰に伴って筋力が低下し、からだのしなやかさも失われていくため動きが鈍くなり、運動量も低下していく猫が多いです。年齢を重ねるにつれて運動量が減っていくのは自然なことですが、一方で、病気が隠れている可能性もあります。特に、高齢の猫では関節炎を患うことが非常に多く、ある研究によると「12歳以上の猫の約90%が関節炎を患っている(Hardie, E.M., 2002. Journal of the American Veterinary Medical Association)」ともいわれています。

関連記事:老猫が寝てばかり!老化?それとも病気?

毛ヅヤが悪くなる、毛が白くなる

人間と同じように猫も年齢を重ねると、毛からツヤが失われパサパサとした質感となってきます。加齢で消化機能が低下するため、被毛の源であるたんぱく質をはじめとする必要な栄養が不足し、毛並みや毛ヅヤが悪くなることがあります。老猫になると毛繕いの回数が減ることも、毛並みや毛の変化に関わっています。

毛ヅヤは健康のパロメーターとしても重要なので、日頃からよく観察してあげましょう。

また、もともと黒や茶などの濃い毛色の猫は、いわゆる「白髪」として白い毛やヒゲが増えてきます。白髪に関しては健康上の問題となることはほとんどありません。

性格が変化する

年齢を重ねると性格の変化が生じることもあり、甘えん坊になる、不安げな様子が増えるといった変化が代表的です。場合によっては、関節の痛みなどのからだの不調から不安を感じていることもあるため、歩き方などもあわせて観察してあげると良いでしょう。

一方で、活発になる、攻撃性が増す、といった場合には甲状腺機能亢進症というホルモンの病気や脳の病気が考えられます。

関連記事:老猫が甘えてくる!どういう状況?何をしてあげればいい?

粗相や夜鳴きが増える

老化により脳の認知機能が低下し、認知症になると自分の居場所やトイレの位置がわからなくなり、粗相が増えることがあります。

また、猫は、人や犬と腎臓の細かな構造が違うため、腎臓の機能が低下しやすく、高齢猫で慢性腎臓病を発症している割合は全体の8割とも言われています。慢性腎臓病になると薄い尿を大量にするようになり、それに伴って水を飲む量も増えるため、粗相が増える原因となることもあるのです。

夜鳴きも認知症の代表的な症状の一つです。

老猫の夜泣きについてこちらで解説しています。

関連記事:老猫の夜鳴きの原因と対処法について解説!

関連記事:【獣医師監修】老猫が水をよく飲むときは注意!病気のサインかも?

五感が衰える、反応が鈍くなる

老化に伴う自然な現象として、ヒトと同じく猫も五感が衰えていきます。猫は嗅覚や聴覚に頼って生活している部分が大きいので、ごはんへの反応が鈍くなったり、声をかけても反応しづらくなったりといったサインが目立ってきます。

一方で、視覚の衰えに関しては意外と気づかないものです。高齢猫では慢性腎臓病などに伴う高血圧の結果、気づかないうちに失明してしまうケースもあります。失明していても、住み慣れた環境では不自由なく生活しているため、動物病院で指摘されるまで家族は失明に気づかないケースが多くあります。

食欲が低下する

老化が進むと、消化機能が低下するうえに、運動量が減少するため食欲が低下します。食欲が低下すると、筋肉や脂肪が落ちることで、痩せてしまうケースも目立ちます。
通常、老化により食欲は徐々に低下し、食事や水を口に入れても飲み込まなくなると老衰が近いサインとされます。

関連記事:老猫が何日もご飯を食べないけど大丈夫?4つの原因と3つの対策

関連記事:老猫が痩せる!考えられる原因ととるべき対応とは

老衰のサインがみられた時に考えておきたいこと

愛猫に老衰のサインがみられた時には考えておきたいこととして、「介護」「看取り」の2つがあります。

介護について

猫がまだ元気なうちに、介護についての情報を得ていれば、いざというとき落ち着いて対応ができます。
老衰が近づくと、猫が寝たきりになる場合があります。床ずれ防止のマットや、排泄のサポートのおむつなどの準備を検討しておきましょう。

また、食事や水分を自力で摂れなくことも少なくありません。体を起こして食器を近づけてあげれば自分で食べられる場合と、シリンジで口に入れてあげないといけない場合など、状況に応じて必要な食事の介助が異なります。

愛猫をどう看取るか

愛猫の看取り方についても考えておく必要があります。以下の項目について、家族で話し合っておけるといいですね。

・食べない飲まなくなったときに点滴などの延命治療をするかどうか
・病院か自宅か最期を迎える場所を考えておく
・写真を撮るなど最後にしてあげたいことを考える
・ペットロスにならないよう飼い主は心の準備をしておく
・老衰でも最期は目を閉じ眠るようにではなく、痙攣や呼吸困難などが起こる場合もあると知っておく
・火葬など埋葬方法や猫用の葬儀について調べておく

老衰の予防法は?長生きさせるポイントとは?

加齢に伴う衰えは、ヒトもネコも長生きの宿命であり、完全な予防は難しいです。一方で、衰えてゆくスピードを遅らせることは可能です。そのために大切なのが以下の3点です。

老猫のために適した飼育環境にする

まずは愛猫が過ごしやすい環境を整える必要があります。以下の点に気を付けましょう。

・老猫はある程度家具や家の配置を記憶しているため家具の配置を変えない
・猫が移動をするスペースに物を置かない配置を変えないなどの配慮をする
・猫がぶつかる場所にクッション性のあるものを設置する
・キャットタワーやトイレなどは、段差の少ないものにする
・フードはシニア用に変え、食器も体勢的に負担にならない高さのものにする
・フローリングなどの滑る床にはマットを敷く
・足腰が弱るため、水飲み場の数を増やす
・飲み水は常温かぬるま湯にして与える
・必要に応じてフードにぬるま湯やウェット、スープをかける
・歩行が難しくなってきたら、猫が普段いる場所の近くに水飲み場やトイレを移動する

病気がなく、単なる老衰なのであれば家族が受け入れ「老衰とつきあっていく」姿勢が大切となります。老衰は健康で長生きしてきてくれた証ともいえます。生活環境を整えて、過ごしやすくしてあげる工夫が必要になるといえるでしょう。

ライフステージに合った餌にする

シニアになってきた猫は、必要とする栄養のバランスや量が変わってきます。特に7歳を超えたあたりでのからだの変化が大きいと考えられているので、シニア向けフードへ切り替えることが、推奨されています。市販のシニア向けフードの中には関節に配慮した成分が含まれていたり、慢性腎臓病の発症に備えて栄養バランスを整えていたりするフードもあります。

関連記事:食欲は健康の大切な指標!老猫が食べないときの対応を解説!

1年に1回は必ず健康診断を受ける

老猫にみられるさまざまな変化が、単なる老化現象なのか、なにか他の病気が潜んでいるのかを、飼い主様だけで判断することは難しいと言えます。動物病院で診断してもらい、対応を明確にしていくことで、穏やかな老衰を迎えることができるでしょう。

ちょっとした違和感を放置しない

よく観察したうえで、判断に迷うようであれば獣医師に病気が隠れていないか相談してみるのも一つです。「いつもと違う」というちょっとした違和感に気付くことが大切です。そのために最も必要なのが、「正常」つまり「いつもの様子」をよく知っておくことです。日頃から、食欲、排泄の状態・量、元気、お気に入りの場所など、よく観察しておくようにしましょう。

「もうトシだからなぁ…」と加齢のせいだと思いこんでいると、思わぬ病気を見逃すこともあります。例えば、関節炎であれば、動物病院で痛み止めを処方されたとたんに、家族が驚くほど活発になるケースも多くみられます。

まとめ

老衰は命の営みの中のごく自然な一部であり、長生きしてくれている証とも考えられます。老衰を嫌い、拒むのではなく、うまく受け入れてつきあっていく姿勢が大切です。老衰なのか病気なのか迷う、老衰をどう受け入れて良いのか悩む、そんなときは獣医師や他の飼い主などの話も聞きながら、愛猫とのかけがえのない時間をもっと大切に思えるようにしていけると良いですね。

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WITHこの記事を監修した人

西岡優子

西岡優子

【経歴】 北里大学獣医学部獣医学会 卒 砂川犬と猫の病院 勤務医 都内の獣医師専門書籍・雑誌出版社 編集者 吉田動物病院 勤務医 獣医師として就労する傍ら、犬・猫・小動物系ライターとして活動中 【資格・所属】 ●一般社団法人 日本ペット技能検定協会 認定 ドッグライフアドバイザー ●西日本心臓病研修会 心エコー技術トレーニングコース 修了 ●獣医画像診断学会 所属

ABOUTこの記事をかいた人

ふぁみまる編集部

今まで犬を始め、フェレット・ハムスター・カメ・インコなどさまざまなペットを飼育してきました。現在は、ジャックラッセルテリアと雑種の2匹を可愛がっています。趣味は愛犬たちとの旅行です。 このメディアでは、多くの飼い主の方々の不安や疑問・困っていることを一緒に解決していきたいと考えています。