健康そのものにみえていた猫が突然亡くなってしまう、いわゆる「突然死」は、残念ながらどの家庭の猫でも起きてしまう可能性があります。
そこで今回は突然死の主な原因とされるものを解説し、飼い主さんが猫の突然死というリスクに対してとれる対策を紹介します。
目次
猫の突然死の原因として考えられるものとは?
まず「突然死」とはそもそもどのような亡くなり方をいうのでしょうか。
WHO(世界保健機関)の定義によれば、突然死とは「瞬間的な死亡、もしくは原因となる病気を発症してから24時間以内に死亡すること」とされています。 交通事故や猫にとって有害な成分を含む植物などの誤食による死は「突然死」には含みません。(猫を外に出さない、誤食されそうなものを家庭に置かないなど注意しましょう!)。
なんの症状もなく、元気に見えていた猫が突然死した場合、考えられる原因には「心筋症」「猫のフィラリア症」「アレルギーや中毒」などを挙げることができます。
心筋症
心筋症は心機能の障害を伴う心筋疾患であり、主に「肥大型」、「拡張型」、「拘束型」の3つに分類されています。特に猫に多いのは心臓の筋肉が厚くなっていく「肥大型心筋症」といわれており、こちらは後ほど改めて詳細を記載します。
どの心筋症においても初期症状は無症状のため、なかなか飼い主さんが発見することは難しいといわれています。進行するにつれて元気がない、食欲がないなどの症状が見られることもありますが、いきなり重症化してしまい不整脈や心拍出量の低下からの失神、そして突然死が起こる場合もあります。
フィラリア症
猫のフィラリア症とは犬糸状虫と呼ばれる寄生虫が、主に心臓や肺動脈に寄生して起こる病気です。昔は犬にしかフィラリア症は発症しないと考えられていましたが、最近では猫にも発症することがあるとわかってきています。
犬のフィラリア症と異なり、はっきりとした症状がなかったり、食欲・元気がない、咳が出るなど他の病気と見分けがつかない様々な症状が見られたりなど犬糸状虫の寄生を疑うことが難しくなっています。
犬の場合は、動物病院内で簡易的な検査キットを使用したり、採血した血液を顕微鏡で観察したりすることで犬糸状虫の感染の有無を確認することが可能です。しかし、猫の場合は動物病院内で犬のように簡易検査ができず、外部の検査機関に依頼するため発見が遅れてしまいます。
そのため、気づかない間に犬糸状虫に感染し、死滅した虫体が肺や心臓の血管を詰まらせることで急に血液循環が途絶えてしまい、猫が突然死を起こす原因になることもあると考えられます。
アレルギーや中毒
ある特定の物質に対して免疫反応が起こることで体に害を及ぼしてしまう状態をアレルギーといいます。猫がアレルギーを引き起こす可能性があるものには、牛肉・豚肉・鶏肉などの食べ物やワクチン接種、内服薬や注射薬などです。
アレルギー発症後、急激に血圧が下がり意識がなくなったり、呼吸困難を起こしたりする状態を「アナフィラキシーショック」と呼び、猫の突然死が引き起こされる可能性があります。
また、猫が中毒を起こす食べ物には玉ねぎや長ネギなどのネギ類、チョコレートなどがあり、食べ物以外ではタバコ、アロマオイルや香水や芳香剤などがあります。これらを猫が何らかの形で体内に取り込むことによって急性中毒症状を起こし、場合によっては突然死してしまうこともあります。
まれにですが、何かの病気の治療で処方された薬が合わず薬疹が出てしまったり、急激な体調不良が起こることもあります。お薬を飲んで、嘔吐や下痢が起こったり、食欲不振、皮膚に発疹が出たりと異常が確認された場合は、投薬を中止して必ず病院を受診するようにしてください。
猫に多い肥大型心筋症ってどんな病気?
猫で最も広く発生する心筋症であり、何も症状や心雑音がない猫であっても11~16%に認められると報告されています。診断時の年齢は5.5歳を中心に4か月~16歳と大きな幅があるため、猫が何歳であったとしても注意が必要です。
肥大型心筋症とは
肥大型心筋症とは、心臓の左心室における筋肉が異常に分厚くなっていく病気です。心臓は血液を全身に送り出すポンプ機能を担っていますが、筋肉が肥大することによって心臓の内部の空間が狭くなってしまって、ポンプの機能をうまく果たせなくなっていきます。
末期にポンプ機能が一定以下にまで低下してしまうと「左心不全」の状態となります。心臓の血液を送る力が低下し、肺に血液が余剰にたまると、肺胞の周囲にある毛細血管から血液の液体成分が肺胞内に染み出します。このような状態になると肺胞の中に液体成分が溜まるため呼吸困難などが起こります。
心臓のポンプ機能が弱まり、十分な血液を全身に送れなくなり血液のうっ滞が起こる状態を「うっ血性心不全」といい、命にかかわります。
肥大型心筋症を発症するとどうなるの?
発症してから心不全に至るまでは、明確な症状を出さないまま進行することがほとんどです。進行のスピードは個体差が大きく、全く気づかれないまま天寿を全うする猫もいれば、急速に進行して亡くなってしまう猫もいます。
初期の症状はわかりにくく、33~55%が無症状です。見た目が健康な猫の15%で肥大型心筋症と診断されており、とても高い有病率です。短毛の雑種に多いといわれますが、長毛の雑種、メインクーン、ラグドール、アメリカンショートヘアなどでも多く、遺伝性の疾患でもあります。
また、明らかな症状が何もない初期の段階であったとしても、実は不整脈の発生リスクは増加しています。不整脈の中には致死性のものもあり、病気が進行したうえの心不全によってではなく、ある日突然の不整脈によって「突然死」が引き起こされることもあります。
ほかに、肥大型心筋症が進行するにつれて動脈血栓塞栓症と呼ばれる合併症のリスクも増加します。大きな血栓が太い動脈を詰まらせてしまう病態であり、致死率が80%以上と極めて高く、なんとか一命をとりとめたとしても再発が多く、治療が難しい病気とされます。
猫の突然死は予防できる?
今まで何の症状も見られなかった愛猫が突然亡くなってしまう「突然死」は、飼い主さんに後悔や罪悪感を引き起こしてしまうことが多く、重大なペットロスに陥ってしまう危険性も高いといわれています。
では、猫の突然死は予防できるのでしょうか?
肥大型心筋症の予防方法
心不全や動脈血栓塞栓症などによって突然死を引き起こす肥大型心筋症ですが、発症には遺伝子が関わっているということもあり、残念ながら発症を予防する方法はありません。しかし、早期発見・早期治療開始に努めることはできます。
早期発見のために飼い主さんができることは、定期的な検診をうけさせることとなります。肥大型心筋症の発見には心臓の超音波検査が有効といわれており、7才未満は1年に1回、7才以上は半年に1回の実施が推奨されています。
ただし、心臓の超音波検査は痛みこそないものの一定時間おとなしく横向きになっていてもらわないと精度良く実施することができないため心臓の超音波検査をおとなしく受け入れてくれない猫も少なくありません。
そのような場合はNT-proBNPという心臓病の発見に特化した心臓バイオマーカーを血液検査で測定することを検討してみても良いでしょう。ただ、NT-proBNPは数値の高さによって心臓への負担の程度を評価することはできますが、心臓へ負担をかけている原因を特定することはできないということを理解しておく必要があります。
猫のフィラリア症の予防方法
猫におけるフィラリア症の予防方法は、犬と同様にフィラリア症予防薬を4月~12月の間に投与することが一般的ですが、地域差が若干あります。フィラリア症予防薬には様々なタイプが開発されているため、愛猫にとってどの製品が一番適切か、かかりつけの獣医師とよく相談するようにしましょう。
アレルギーや中毒の予防方法
猫にアレルギーや中毒を起こさせないためには、猫にとって何が危険となるか理解しておくことと猫にとって危険なものを自宅に持ち込まない、または猫の手に触れる場所では決して使用しない、ということが最も有効です。
まとめ
どれだけ気をつけていても突然死のリスクは避けられないもの。
猫に突然死をもたらす原因には主に心筋症、猫のフィラリア症、アレルギーや中毒などを挙げることができますが、これ以外にも原因となることは存在し、また原因が不明な場合もあると考えられます。愛猫と一緒に過ごすことのできる時間は永遠に続くというわけではないため、今という時を精一杯大事にするようにしてくださいね。
万が一、ペットロスや愛猫が亡くなった場合についての情報はこちらの記事にまとめています。
「ペットロスの乗り越え方|症状や接し方を解説!」
「猫が亡くなってしまったときにやるべきこととは?自宅でできる対応を解説!」