愛犬が遺伝的にヘルニアになりやすい犬種のため気をつけるようにいわれたり、動物病院でヘルニアのため手術が必要と診断されたりして不安に感じている飼い主さんもいると思います。
そこで今回は、犬のヘルニアにはどのくらいの治療費用がかかるのかを種類別に解説します。また、具体的な症状や治療方法を解説していきます。
目次
犬のヘルニアの種類
「ヘルニア」とは腸や肝臓などといった臓器や脂肪などの組織が何らかの原因により、本来あるべき位置から他の場所に飛び出てしまった状態をいいます。
犬には様々なヘルニアが見られますが、一般的には以下の4種類が多いといわれています。
椎間板ヘルニア
犬の脊椎(背骨)は首の部分から尻尾にかけて、それぞれ「頸椎(けいつい)」「胸椎(きょうつい)」「腰椎(ようつい)」「仙椎(せんつい)」「尾椎(びつい)」という椎骨(ついこつ)と呼ばれる骨が連結することで構成されています。この椎骨にはリング状になっている空洞があり、その中を脊髄と呼ばれる知覚・運動の刺激伝達や反射機能などを司る非常に重要な太い神経が通っています。
第1頸椎と第2頸椎以外の椎骨の間には「椎間板」というクッションの役割を果たす軟骨があり、中心の「髄核(ずいかく)」とその周りの「線維輪(せんいりん)」で構成されています。遺伝や外傷などで線維輪を突き破って飛び出してきた髄核、または加齢によって厚くなった線維輪がそれぞれ脊髄を圧迫している状態を「椎間板ヘルニア」といいます。
臍(さい)ヘルニア
妊娠中に子宮の中の仔犬が母犬から酸素や栄養をもらうために、胎盤と仔犬をつないでいる管のことを「臍の緒(臍帯:さいたい)」といいます。
臍の緒は仔犬のお腹に開いている穴から仔犬の体内に入り込んでいます。生まれた後に不要となった臍の緒は乾燥して落ちるとともに、正常ならば仔犬のお腹の穴は自然に閉じて臍になります。
しかし、先天的な異常などによってお腹の穴が閉じなかったり、閉じるのに時間がかかったりしていると、開いている穴から腸管や脂肪の一部などが飛び出した状態のことを「臍ヘルニア」といいます。
鼠径(そけい)ヘルニア
後ろ足の付け根のことを「鼠径」といい、先天的異常や交通事故などの強い衝撃で鼠径に穴が開いてしまい、そこから脂肪や腸、膀胱などの臓器が出てきてしまう状態を「鼠径ヘルニア」といいます。
メス犬の場合には、発情と一緒に鼠径ヘルニアが悪化する場合もあるため注意する必要があります。
会陰(えいん)ヘルニア
肛門の周囲の部分を「会陰」といい、会陰部分の筋肉が何かしらの原因によって隙間ができ、そこから直腸や膀胱、前立腺などの臓器が飛び出してしまう状態を「会陰ヘルニア」といいます。
特に去勢手術を受けていない中高齢のオス犬に多いともいわれています。
犬のヘルニアは種類により症状が異なる
このように「ヘルニア」といっても発生する場所などによって様々な種類に分類されており、症状も異なってきます。また、同じヘルニアでも重症度によって引き起こされる状態は異なるため、飼い主さんは愛犬の様子をよく観察してあげる必要があります。
椎間板ヘルニアの症状
椎間板ヘルニアは症状の重さによって以下のように軽い順から5つのグレードに分けることができ、症状もそれぞれ異なります。
・グレード1:背中や首などの特定の場所を撫でたり、抱っこしたりすると痛がるなどの「痛み」のみが見られることが多い、最も軽度な状態です。
・グレード2:痛みに加えて足の先を少し擦るように歩く、若干のふらつきが見られるなどの軽度の神経症状は認められるものの、4本の足で歩行出来ている状態です。
・グレード3:痛みに加えて後ろ足を引きずって前足だけで歩いたり、4本全ての足を自分の意志で動かすことができないため歩くことができなかったりといった麻痺の症状が見られます。
ここからが重度に分類されます。
・グレード4:グレード3からさらに状態が進行しており、歩くことができないだけではなく自分の意志で排尿や排便といった排泄行為もできなくなります。また、痛みなどの感覚も感じにくくなっている状態です。
・グレード5:最も重度であり、神経が麻痺していることから足先の骨をペンチのようなものでつまんでも痛がる様子が見られず、回復率が著しく低い状態となります。
臍ヘルニアの症状
すでにお腹の穴が閉じており飛び出してしまった脂肪組織が残ってしまっているだけの場合は、臍のあたりが膨らんでいるだけで症状は見られないことがほとんどです。
一方、お腹の穴が開いたまま、飛び出してしまった血管や腸などが出たり入ったりしている場合は、痛みや嘔吐、下痢、便秘などの通過障害の可能性があります。さらには、穴によって飛び出している腸などが締め付けられる「嵌頓(かんとん)」という状態になってしまうと、出血やうっ血による強い痛みや腸閉塞などによって生命の危機に繋がる場合があります。
鼠径ヘルニアの症状
開いている穴が隙間ほどの場合は、脂肪組織が飛び出していることで鼠径部分が膨らんでいるだけで、症状は見られないことがほとんどです。
開いている穴が大きければ、ヘルニア内に小腸や膀胱などが入り込んでしまうことで痛みや嘔吐、下痢、便秘などの通過障害や膀胱炎の可能性があります。さらには、穴によって飛び出している臓器が締め付けられる「嵌頓(かんとん)」という状態になってしまうと、出血やうっ血による強い痛みや腸閉塞、膀胱閉塞などによって生命の危機に繋がる場合があります。
会陰ヘルニアの症状
会陰部分の隙間から飛び出してしまう臓器によって、様々な症状が見られることが多いでしょう。
直腸の場合に便秘や下痢の症状がみられた際、排尿障害からの腎不全、また前立腺だと前立腺炎を引き起こす可能性が考えられます。
犬のヘルニアの治療法
ヘルニアの治療といえば外科手術を一番に思い浮かべる飼い主さんも多いと思いますが、ヘルニアの状態や症状によっては内科的な治療や経過観察を選択する場合もあります。
椎間板ヘルニアの治療法
椎間板ヘルニアにおいて主な治療法は外科手術や抗炎症剤などの投薬による「内科治療」や、「ケージレスト」といったトイレ以外はケージの中でおとなしくさせておく「安静」などがあります。
これらは基本的に症状のグレードや全身状態などによって治療方法が選択され、グレード2まではケージレストや内科療法をまずは行ってみて、それ以上のグレードになると外科手術を実施することが多いでしょう。
また病院によっては、「幹細胞治療」という点滴によって細胞を投与することで損傷した神経機能の回復を促す比較的新しい治療方法を行っているところもあります。
臍ヘルニアの治療法
臍ヘルニアが無症状であり、かつ開いている穴が小さい、お腹の穴が閉じていて飛び出してしまった脂肪組織だけが残っているだけなどの場合は手術をせずに経過観察を行うこともあります。ただし未避妊・未去勢の若齢犬では、避妊去勢の手術を行う際に一緒に整復することがほとんどです。
一方、何かしらの症状が既に見られている、または穴が大きくて将来的にトラブルを引き起こすと考えられるケースなどは緊急手術が必要な場合もあります。
鼠径ヘルニアの治療法
臍ヘルニア同様、未避妊・未去勢の若齢犬では避妊去勢の手術を行う際に一緒に整復することが多いです。
無症状であり、かつ開いている穴が小さいなどの場合は手術をせずに経過観察を行うこともありますが、成長や肥満などによって鼠径ヘルニアが悪化することもあるので、可能な限り早めに手術を行うことが推奨されています。
何かしらの症状が既に見られていたり、穴が大きくて将来的にトラブルを引き起こすと考えられたりする場合は、緊急手術が必要な可能性もあります。
会陰ヘルニアの治療法
会陰ヘルニアの治療は多くの場合、外科手術によって飛び出した臓器を元の状態に戻すとともに開いている筋肉の隙間をふさぐことが行われます。
また、発生に男性ホルモンが影響している可能性が高いと考えられていることから、基本的に去勢していない犬の場合は再発防止のため、同時に去勢手術を行うことがほとんどとなります。
犬のヘルニアにかかる治療費
では、最後にそれぞれのヘルニアにかかる治療費(検査費用なども含む)をご紹介していきます。ただ、あくまで目安であるため、実際の金額はかかりつけの動物病院に確認してみてくださいね。
椎間板ヘルニアの治療費
内科的治療は5~12万円、外科的治療は30~50万円程度といわれています。
特に外科的治療の場合は2週間ほどの入院が必要な場合もあるので、そのぶん高額となっています。
臍ヘルニアの治療費
基本的には外科的治療となり、費用は5~10万円程度といわれています。
ただ、去勢・避妊手術と一緒に実施する場合は去勢・避妊手術に5,000円~1万円程度プラスしたくらいの費用がかかるでしょう。
鼠径ヘルニアの治療費
こちらも基本的には外科的治療となるため、費用は5~10万円程度といわれています。
ただ、去勢・避妊手術と一緒に実施する場合は、臍ヘルニア同様去勢・避妊手術に5,000円~1万円程度プラスしたくらいの費用がかかります。
会陰ヘルニアの治療費
こちらも基本的には外科的治療となり、ヘルニアの重症度にもよりますが費用は7~15万円程度といわれています。
まとめ
臓器や脂肪などが何らかの原因により、本来あるべき位置から他の場所に飛び出てしまった状態を「ヘルニア」といい、犬の場合は主に4種類のヘルニアがあります。治療方法は外科的治療を行うことが多いですが、重症度によっては内科的治療を選択する場合もあります。治療費も治療方法に伴って変動します。
もし、愛犬が何かしらのヘルニアと診断された場合は獣医師に詳細を確認しつつ、ベストな治療方法を相談するようにしてくださいね。