愛犬が急に歩かなくなった。腰を痛そうにしている。そんな症状を見て、「これって、いわゆるぎっくり腰?」と疑問に思う飼い主も少なくありません。この記事では、犬が腰に痛みを感じているときにみせる仕草や、その対処法について解説します。
目次
「ぎっくり腰」という病気はない!?
よく聞く「ぎっくり腰」という言葉、実は正式な病名ではありません。人では正式に「急性腰痛症」と呼ばれています。この「ぎっくり腰」と全く同じ状態は犬にも発生しますが、獣医の教科書などに載るような正式な病名としても「ぎっくり腰(急性腰痛症)」というものは存在しないのが現状です。
なぜ発症するのか、その仕組みはよくわかっておらず、急に発生する腰痛のうち、画像検査などで原因が特定できないものを指します。
獣医師が飼い主に向かって「ぎっくり腰」という言葉を使うときは、「検査では明らかな異常はないけれど、急に発症した原因不明の腰痛ですね」ということを飼い主にわかりやすく伝えるために使っていることが多いでしょう。
正式な病名ではないのですが、この記事でもわかりやすさを重視して、「急に発症した腰痛のうち、検査で明らかな異常がないもの」を「ぎっくり腰」として説明していきます。
犬は腰が痛いときにどんな仕草をみせる?
犬がぎっくり腰などで腰に痛みがあるとき、具体的には以下のような仕草をみせます。
- 抱っこを嫌がる
- 動きたがらない、腰を丸めてじっとしている
- 痛みによる震え
- 食欲が落ちる
愛犬の異常を感じたときは、このような仕草がないか注意して観察してみましょう。なお、足が思い通りに動いていないようだったり、足の甲を地面につけて歩いたりといった症状は神経麻痺が疑われます。神経麻痺は単なる腰痛ではなく、椎間板ヘルニアなどの神経疾患の存在によって引き起こされますので、より重症度が高いといえます。
ぎっくり腰と誤解されやすい「椎間板ヘルニア」とは
ぎっくり腰と誤解されやすい疾患に、椎間板ヘルニアがあります。
椎間板ヘルニアは、椎間板物質が飛び出してしまい、脊髄を圧迫することによって痛みや神経麻痺などの症状が引き起こされる症状です。ミニチュアダックスフントやウェルシュコーギーに代表される、軟骨異栄養性犬種で多く発生します。どういったところが異なるのか、詳しく見ていきましょう。
ぎっくり腰と椎間板ヘルニアの違いを解説
ぎっくり腰と椎間板ヘルニアの大きな違いは、検査で検出できる異常が生じているか否かの違いになります。
ぎっくり腰は検査で異常を特定できないため、痛み止めの薬と安静の対症療法が選ばれます。一時的な腰痛であれば、1〜2週間程度で回復が見込めるでしょう。
一方で、椎間板ヘルニアは異常を検出することで診断をつけられる疾患です。診断をつけるための検査は、神経に異常がないか確かめるための神経学的検査と呼ばれる特殊な身体検査、そしてX線検査やCT・MRI検査が行われます。神経学的検査やX線検査は犬にかかるストレスも少なく実施でき、費用も比較的安く行える検査です。
これらで診断がつかなかった場合には、CT・MRI検査が推奨されますが、CT・MRI検査は全身麻酔が必要であり、費用も高額になりやすい検査です。症状が軽く、発症から間もない場合には、いったん対症療法だけで経過をみる場合も多くあります。獣医師と相談しながら進めましょう。
ぎっくり腰と診断された!どうしたらいい?
ぎっくり腰と診断された場合、検査をしても原因がわからないため、多くの場合でとられるのは原因治療ではなく対症療法です。
ぎっくり腰を疑った場合の対症療法は、痛み止めの薬と安静が選ばれます。一過性の腰痛であれば、対症療法をとれば1〜2週間で回復するでしょう。症状が長引くようであれば、ぎっくり腰ではなく、何らかの慢性的な疾患が存在している可能性が高いと言えます。
検査をしても原因がわからないことから、絶対的な予防法は見つかっていません。ぎっくり腰と診断された場合は痛み止めの薬を飲み、安静にするよう徹底しましょう。
椎間板ヘルニアと診断されたら
椎間板ヘルニアと診断がついた後の治療については、症状の重症度に応じて選ばれます。
症状が軽度であれば、ぎっくり腰同様に対症療法(痛み止め・安静)のみで経過観察することで、症状がおさまっていくことも多くあります。ただし痛みが強い、神経麻痺を伴っているなど症状が重い場合には、手術が推奨されることもあります。その後のリハビリなども、状態に応じてさまざまな選択肢があります。
予防的には、フローリングにラグを敷くなどして足を滑らせる可能性を下げる、縦抱っこを避ける、ソファなどの飛び降り乗りをさせないなど、なるべく腰に負担をかけない環境を整えてあげることが大切です。
まとめ
犬が腰を痛がるような仕草をみせたとき、単純なぎっくり腰なのか、何らかの疾患が隠れているのか飼い主が自宅で見分けることは困難です。椎間板ヘルニアのような神経疾患が隠れている場合、様子見をしてもよくならず、かえって症状が進行して、治療が難しくなってしまう場合があります。特に足が思い通りに動かないなど神経麻痺の症状が出ているときは、単純なぎっくり腰ではない可能性が高いでしょう。
はやめに診断をつけ、適切な治療を開始すれば、それだけ回復も早くなります。ぎっくり腰かな?と思うような症状があるときは、なるべく早めに動物病院を受診するようにしましょう。