突然、愛猫の目がまわり、まっすぐ歩けない!それは前庭疾患の症状かもしれません。この記事では、猫の前庭疾患でも特に多い特発性前庭症候群について解説しています。
目次
前庭疾患とは?
前庭疾患とは、その名の通り頭部にある前庭という領域に異常をきたすものを指します。前庭とはそもそもどんな領域なのでしょうか。
前提とは
前庭は、平衡感覚をつかさどる器官の総称であり、末梢前庭と中枢前庭にわけられます。
末梢前庭は、内耳とそれにつながる内耳神経のことです。内耳には有名な三半規管があり、平衡度を感じとる役割を担っています。
中枢前庭とは、脳、さらに詳しく言えば、延髄や小脳の一部を指します。末梢前庭から送られてきた感覚情報を処理する役割があります。
特発性前庭症候群
特発性前庭症候群では、末梢前庭に原因不明の障害が起きていると考えられています。「特発性」とは「検査でわかる明確な原因がみつからない」という意味であり、特発性前庭症候群も、その発症の仕組みなどはよくわかっていません。何事もなく過ごしている中で、ある日急に発症しますが、症状が進行することはほぼないとされています。
特発性前庭症候群の症状
それでは、どのような症状があると特発性前庭症候群が疑われるのでしょうか。主な症状を紹介します。
- 首が左右どちらか片方に傾く(斜頸)
- 歩こうとするとバランスを崩す(平衡感覚の障害、転倒のリスク)
- まっすぐ歩こうとしても、ぐるぐる回ってしまう(旋回)
- 目がぐるぐる回る、あるいは水平に揺れる(回転性・水平性眼振)
- 意識状態は正常である
これらの症状は、特発性前庭症候群だけでなく、他の前庭疾患ともほぼ共通するものです。症状だけで特発性前庭症候群と他の疾患を区別することはできませんので、必ず動物病院での診断を受けるようにしましょう。
老猫がぐるぐる回ってしまう場合は、こちらの記事を参考にしてください。
特発性前庭症候群の診断
特発性前庭症候群を疑う症状があったとき、どのように診断するのでしょうか。
原則は他の似たような症状を引き起こす疾患がないと確認することで診断されます。これらは除外診断と呼ばれ、要するに消去法による診断です。特発性前庭症候群以外で比較的多い前庭疾患は以下のようなものがあります。
中耳炎、内耳炎
最も一般的な原因の一つが中耳炎・内耳炎です。
外耳炎(耳の赤みや痒み、異常な汚れ)を伴うこともあり、耳鏡検査やレントゲン検査が行われます。
腫瘍
老齢の猫では、中耳内耳を巻き込む腫瘍の可能性にも注意しましょう。レントゲン検査が行われますが診断精度はあまり高くないため、CTやMRIを行う必要があります。
鼻咽頭ポリープ
若い猫で注意が必要なのが、鼻咽頭ポリープとよばれるもので、主に中耳がポリープによって圧迫などされることによって症状がでます。
これらは、レントゲン検査や耳鏡検査だけでは診断しきれないことがあるため、CTやMRIの実施が検討されます。
その他の診断としては、脳炎、感染症、外傷や薬の副作用などによって異常が引き起こされる可能性もあります。主治医と、どこまでの検査を望むのかコミュニケーションをとりながら診断のステップを進められるとよいですね。
特発性前庭症候群の治療・ケア方法
特発性前庭症候群と診断された際の治療やケアの方法を紹介します。
経過観察
特発性前庭症候群を確定診断、あるいは仮診断した場合、経過観察が選択されます。目が回って吐いてしまう場合は吐き気止めを使うことがありますが、発症の原因がよくわかっていないため、原因を取り除くための投薬治療はありません。
通常は2〜3日以内に自然回復が始まり、2〜3週間以内に正常に戻ります。投薬以外のケア、主に自然回復までの生活補助が大切であるといえます。
飲水や食事の介助を行う
平衡感覚が崩れていますので、飲水や食事の介助(口もとに持っていってあげるなど)が必要です。
気持ち悪さ、ストレスなどで食欲が落ちている場合には、点滴と強制給餌を実施することもありますので、動物病院に相談してみましょう。
ケージに入れて、安静にする
猫のケガ防止のために、可能ならケージ内にいれて安静にさせるのが理想です。ケージにいれられない、あるいは一時的にでもケージから出すときには、落下・転倒時に危険があるような場所には行けないように環境を整備しましょう。
再検査・精密検査
症状に進行がみられる、あるいは時間をおいても自然回復しない場合は、再検査や、CTやMRIなどの全身麻酔を伴う精密検査も検討されます。
経過観察の期間中はこまめに主治医と連絡をとりながら、新たな異常はすぐに報告できるようにしておけると安心ですね。
経過観察して無事に回復した場合には、普段通りの生活に戻ることができます。ただし、再発の可能性は常にあります。発症を予防する方法はありませんので、普段からよく観察し、異常があればすぐに動物病院に迎えるように準備しておくのが最善です。
まとめ
前庭障害を疑う症状が出たときは、様子をみたりせず動物病院で検査を受けさせることが最優先です。検査を行った結果、特発性と診断された後は自宅でのケアが大切となります。この記事で紹介したことを参考に、異常がある中でも過ごしやすいようなケアをしてあげられるとよいですね。