猫の混合ワクチンは、犬の狂犬病ワクチンと違って、法律で接種が義務付けられているわけではなく、その接種は飼い主に一任されています。それがゆえに接種したほうがよいのか、接種するにしても何を接種したらよいのか、迷ってしまうのではないでしょうか。この記事では猫の混合ワクチンについて詳しく解説しています。
目次
猫のワクチンの種類
混合ワクチンといっても何種類かあり、効果がある疾患の数によって「○種ワクチン」と呼び分けられています。一般的に動物病院において広く扱われているのは3種と5種のワクチンです。それぞれ対象とする感染症の詳細は下に示してあり、5種のほうが幅広い対象を持ちます。
- 3種|猫ウイルス性鼻気管炎(猫ヘルペスウイルス、FHV)、猫カリシウイルス感染症(FCV)、猫汎血球減少症(猫パルボウイルス、 FPV)
- 5種|上記に加えて、猫白血病ウイルス感染症(FeLV)、猫クラミジア感染症
コアワクチンとノンコアワクチン
ワクチンを選ぶにあたって大切な概念が「コアワクチン・ノンコアワクチン」です。
コアワクチンとは「飼育環境によらず全ての猫において接種が推奨されるワクチン」を指し、ノンコアワクチンは「飼育環境、感染リスクに基づいて接種の必要性が検討されるワクチン」を指します。上述の3種ワクチンに含まれているのはすべて「コアワクチン」であり、5種ワクチンは3種に「ノンコアワクチン」を加えたものです。
完全室内で単頭飼育であれば、ノンコアワクチン接種の必要性は薄く、3種ワクチンで十分と考えられます。その一方で、室内と屋外を半々で行き来するような猫であれば、5種ワクチンを検討する必要があるかもしれません。
それぞれの猫の具体的で細かな状況によって、3種と5種のどちらがよいかは変わってきますので、かかりつけの動物病院に相談してみるのがよいかもしれませんね。
3種・5種ワクチンの値段は?
猫の混合ワクチンは、人のワクチンのように一律の値段が決められているわけではありません。それぞれの動物病院の方針や地域ごとの相場によって値段が決められています。関東圏に関していえば、おおむねの相場は以下のようになるでしょう。
- 3種:5,000~7,000円
- 5種:7,000~9,000円
ただし動物病院によって異なるので、気になる場合は事前に問い合わせをしておくのが最も確実です。
推奨される接種方法を解説!
ワクチンを接種させるにしても、どのように接種させればよいのでしょうか。推奨される接種方法は「1才未満の子猫」と「1才以上の成猫」で大きく異なります。この記事では、世界的な獣医師団体である世界小動物獣医師会(WSAVA)が発表したガイドラインに基づいて、接種方法を解説します。
子猫(1歳未満の初年度)
子猫が成猫と大きく違う点は、最初のうちはお母さんからもらった抗体(移行抗体)がまだ体内に残っている点です。移行抗体が残っている時期に混合ワクチンを接種しても、子猫自身の抗体をつくり出すことができません。そのため、移行抗体が消失するタイミングに合わせて混合ワクチンを接種し、子猫自身に抗体をつくらせる必要があります。早すぎても遅すぎてもワクチン接種の恩恵は得られません。
しかし、注意する必要があるのが、移行抗体が消失するタイミングは個体ごとに幅があるという点です。早い場合は6〜8週齢で消失する一方、遅い場合には16週齢まで残存することもあります。そのため、子猫のワクチン接種は6~8 週齢で開始し、16 週齢またはそれ以降まで 2 ~4 週毎に接種を繰り返すことが推奨されます。
初年度に子猫にコアワクチンを接種する回数は、接種を開始した週齢と選んだワクチン再接種の間隔によって異なる、ともいえます。同ガイドラインによれば、16週齢近辺で接種したその後にさらに念をおして26 ~ 52 週齢の間のいずれかの時点でブースター接種をすることが推奨されています。
成猫
子猫のうちにワクチン接種を行った成猫について言えば、3種と5種で接種方針が異なります。3種の場合は、3年に1回の再接種が推奨されています。これまで慣例的には1年に1回の接種が推奨されてきましたが、近年では1年に1回、採血をして抗体価検査を実施し、抗体の残存量を測りつつ、ワクチンそのものの接種間隔はあけることが推奨されるようになりました。定期健診は1年に1回が推奨されていますので、その採血に合わせて抗体価検査を実施するのが、猫へのストレスを最小限に抑えられてよいかもしれませんね。
その一方で、5種については1年に1回の再接種が推奨されています。5種に加えられている猫クラミジアに対する抗体は、他の感染症に対する抗体よりも早く体内から消失するためです。1年程度で抗体は消失してしまうので、毎年ワクチンを再接種する必要があります。
参考:「犬と猫のワクチネーションガイドライン」世界小動物獣医師会(WSAVA)
副反応のリスクはあるの?
ワクチン接種をはじめとする医療行為は、すべてベネフィット(メリット)とリスク(デメリット)がついてまわります。ワクチン接種によって得られる恩恵は上述のように大きなものですが、ごくまれに副反応が生じる場合もあります。
アナフィラキシーショック
重篤なものでいえば、アナフィラキシーショックが代表的です。接種後 30分以内での発生が多く、緊急治療が必要な副反応です。接種後はできれば病院のすぐ近くで過ごし、ぐったりしたり、呼吸困難になったり、なにかおかしな様子がないかよく観察するようにしましょう。
注射部位肉腫
アナフィラキシーショックは接種直後に発生するまれな副反応ですが、さらにまれに接種後数ヶ月〜2年たってから発生する副反応もあります。
注射部位肉腫とよばれるもので、ワクチンを注射した部位に悪性腫瘍の1種が発生してしまう副反応です。発生した悪性腫瘍に対しては外科摘出が必要です。普段から猫のからだを触り、注射をした部位にしこりができていないか観察できると理想的ですね。
そのほか、比較的軽微な副反応でいえば、下記のような症状が発生する場合があります。
- 顔が腫れる
- 元気がない
- 食欲がおちる
- 発熱する
- 嘔吐下痢
軽微とはいえ、こういった症状が認められたら必ず動物病院に連絡するようにしましょう。
まとめ
猫の混合ワクチンは得られるメリット・デメリットをしっかり認識した上で、接種方針を決めることが重要です。猫のワクチン接種に法的な義務はなく、強制的なものではないので、飼い主自身がしっかりと知識を持ったうえで獣医師と接種方針について相談していきましょう。