突然死は、自宅でまめに様子を観察していても、不調に気づくことが難しく突然亡くなってしまうことが多くあります。てんかん発作による痙攣で亡くなってしまう場合などもありますが、症例の多くは心臓病が原因となっています。
心臓病は、老犬の死因で腫瘍に次いで第二位についており、突然死を考える上で非常に重要な病気といえるでしょう。
この記事では、犬に多く発生し、突然死の原因になる僧帽弁閉鎖不全症、致死性不整脈を中心に、痙攣をおこし心発作と見分けが難しい、てんかん発作についても解説します。
また、これらの病気による突然死のリスクを小さくするために、飼い主がとれる行動についてもみていきましょう。
目次
犬で最も多い心臓病!僧帽弁閉鎖不全症とは
僧帽弁閉鎖不全症は、犬の心臓病のうち最も多い病気です。心臓は簡単にいえば、全身を巡ってきた血液をうけとる右心房と右心室、そして再び全身に血液を送り出す左心房と左心室の4つの区画に分かれています。
僧帽弁とは左心房と左心室の間にある弁構造で、その名の通り血液の逆流を防ぐ役割を担っています。
僧帽弁閉鎖不全症は、この弁の機能が衰えてきて、血液が心臓内で逆流してしまう病気です。中~高年齢で発症することが多く、加齢に伴い進行していきます。
初期には明らかな症状を示さないので、気づかれないままに進行しつつ、急激に悪化して突然亡くなってしまうことがあります。
どうやって診断するの?
僧帽弁閉鎖不全症を疑うきっかけとして最も多いのは、聴診による心雑音の確認です。
僧帽弁閉鎖不全症に限らず、心臓病を発症している犬では心臓の音に雑音が混ざることが多くあります。
心雑音に気づいた場合には、血液検査、心電図検査、X線検査などを進めながら、最終的には心臓の超音波検査によって診断が下されます。
症状は?
初期には心臓の雑音以外に明らかな症状を示さないことがほとんどです。病状が進行するにしたがって食欲の低下、元気の低下、運動を嫌うようになるなどの症状があらわれ始めます。
最近、散歩に行きたがらなくなった、なんとなく動きが鈍いといったことを安易に加齢のせいと考えないようにしましょう。病状が重度になれば、安静時でも呼吸が荒くなったり咳をしたりするようになってきます。
万が一、このような症状がある場合には緊急対応が必要なことが少なくありません。家で様子をみるのではなく、なるべく早く動物病院を受診するようにしましょう。
治療法は
僧帽弁閉鎖不全症と診断された後、病状が初期段階であれば定期的な検査で経過観察を行うことが多いです。そして進行が認められたときにはほとんどの場合、飲み薬による内科的治療が行われることになります。ただし、内科的治療では進行を遅らせることはできても、止めることはできません。
進行を完全に止める唯一の治療として手術が行われることがありますが、高度な技術と設備が必要であるため行える施設は限られています。動物病院とよく相談しましょう。
犬もヒトと一緒!致死性不整脈とは
心拍のリズムが崩れることを不整脈と呼びます。不整脈の中には、放置していても問題ないものもあります。
問題となるのは、心臓がうまく血液を全身に送り出せなくなり、生命が危機に瀕するような不整脈です。これを致死性不整脈と呼びます。ある日突然起こることもありますが、心臓病をもともと持っているとより起こりやすいといえます。
致死性不整脈とは
致死性不整脈とは、心臓の電気活動に異常が生じることで、心拍が不規則になり、最悪の場合には突然死に至る可能性がある不整脈のことをいいます。
致死性不整脈には、心室細動などがあります。これは、心臓が痙攣したような状態になり、血液を循環させる機能を十分に果たせなくなります。その状態のまま治療を行わなければ、心臓から血液が送り出せない状態にあるため、突然死に至ります。
症状は?
不整脈によって血液が全身にまわらなくなった場合には、ふらつく、その場でうずくまる、意識を失う、呼吸が荒くなるなどの症状があらわれます。
症状はほんの数秒しかあらわれないこともありますので、「すぐに元に戻ったから大丈夫」と判断して様子見をすることは危険といえます。上述のような症状がみられたときには、なるべく早く動物病院を受診するようにしましょう。
診断は?
血液検査や聴診、心電図検査、心臓の超音波検査など、さまざまな検査によって診断がおこなわれますが、その中でも要となるのは心電図検査です。
動物病院内でちょうどよく不整脈が発生すれば診断は簡単なのですが、一日のうち数回しか不整脈があらわれないこともあります。
そういったケースを疑った場合には、24時間記録可能な心電図ホルスターを利用することもあります。
治療法は?
不整脈の種類により異なりますが基本的には内科的治療が行われます。
不整脈を引き起こしやすくなる病気(心臓病など)をもともと持っているならば、その病気の治療を行うことが不整脈の治療となります。いずれにせよ、不整脈の治療を行うにはしっかりとした診断が必要不可欠です。
突然死をおこすのは心臓病だけじゃない。てんかんにも注意!
痙攣をおこして倒れた時に、何が原因なのかわからないことがあります。倒れてしまうと心発作かと思いがちですが、実はてんかん発作の場合もあります。どのように見分ければよいのでしょうか。
てんかん発作と心発作の見分け方
・てんかん発作の特徴
てんかん発作とは、脳にある神経細胞の異常な電気活動により引き起こされる発作のことで、突発的に神経系が異常に活動することで症状が起こります。手足をバタバタ動かす場合や、手足をピーンと突っ張りのけぞるようになる場合など、症状はさまざまです。歯をガチガチ噛み鳴らしたり、失禁したりする場合もあります。
てんかん発作の場合は前兆があります。一点を見つめていたり、そわそわと落ち着きなく歩いたりなどいつもと違う行動が起こることが多いです。また、発作が落ち着いた後は普段とあまり変わらない様子で生活することが多いのも特徴です。
・心発作の特徴
心発作の場合はてんかん発作の時のように予兆が起こらず、何か元気がないなという状態から発作が起こります。呼吸がはやい、舌の色が悪いなどの症状を伴うことが多いです。発作が落ち着いた後もぐったりした状態になり、命にかかわることもあります。
てんかん発作と心発作は治療方法が異なる
てんかん発作と心発作では、起きている症状は似ていますが治療方法は全く違うので、しっかり診断することが大切です。発作が起きて落ち着いても、様子を見るだけでなく、必ず動物病院を受診するようにしましょう。
関連記事:【獣医師監修】老犬の突然の痙攣発作!飼い主がとるべき対処法と原因について
愛犬の突然死リスクを小さくするために飼い主ができること!
愛犬が突然死で亡くなってしまった……ということは、何としても避けたいですよね。ここでは、突然死を避けるために、飼い主が事前にできることをご紹介します。
定期的な健康診断を受けさせる
僧帽弁閉鎖不全症に代表される心臓病は、初期には症状がはっきりせず、飼い主に気づかれないままに進行してしまうケースが非常に多くあります。
愛犬の体調に変化を感じていなくても、動物病院で定期的に聴診をしてもらうだけで心臓病の早期発見に役立ちます。
大がかりな健康診断はちょっと……という場合でも、聴診をしてもらうだけであれば時間も費用もあまりかかりません。ワクチン接種のついでなどにお願いしてみるとよいでしょう。
診断を受けたら、しっかりと治療を受ける
心臓病と診断を受け一度薬を飲み始めたら、基本的には生涯にわたって飲み続けることが必要です。
心臓病の薬は飲み続けないと効果がないばかりか、途中で止めるとかえって急激に悪化することもあります。また表にでている症状にあわせて薬の量を自己判断で調整しないことも大切。
薬の用法用量は、獣医師の指示を厳守するようにしましょう。
まとめ
犬の突然死の多くは心臓病です。症状があらわれたらすぐに動物病院に相談しましょう。ただし、突然の発作で突然死する場合や、相談したときには既に進行してしまっている例もあります。
また、心発作に似たような症状を起こすてんかん発作もあります。てんかんの場合は治療方法が異なりますので、しっかり診断してもらうことが大切です。
ワクチン接種のついでなどにしっかり聴診してもらうだけでも早期発見に役立ちます。そして心臓病の診断を受けたら、治療を継続することが大切です。
突然死リスクを少しでも小さくし、飼い主として愛犬に寄り添い、かけがえのない時間を大切に過ごしていきましょう。