若い犬ではほとんど見られず、老犬になるにつれて増えてくる症状、「徘徊」。この記事では、徘徊とはなにかということから、徘徊と間違えやすい病気や徘徊に対する対応をまとめています。
目次
老犬にみられる徘徊とは
徘徊とは、ウロウロとあてもないように歩き回ることを指しています。人の医学分野においては、認知症の代表的な症状の1つとされ、認知機能の障害やそれに伴うストレス(不安など)によって生じるとされています。
認知症は高齢性認知機能不全ともいわれ、老化に関連して認知機能が徐々に低下し、特徴的な行動障害がおこる状態です。見当識障害・人やほかの動物への接し方が変わる・昼夜逆転・不適切な排泄・無気力、無関心・無目的の行動などが代表的な症状です。徘徊は無目的の行動に当てはまります。
ポイントは、「他者から見てとれるような明確な目的がないにも関わらず歩き回る」という点です。
犬の認知症においても、人の徘徊と同様の症状が認められることが知られています。愛犬がご飯を探すなどの明確な目的もなく、ウロウロと歩き回るようになったら認知症である可能性が高いといえるでしょう。
注意!徘徊と間違えやすい病気!
「徘徊」は認知症の症状の1つです。症状の出現には何かしらの認知機能の異常が関わっていると考えられています。一方で、認知機能が正常に思える犬が徘徊しているように見えるとき、それは徘徊ではなく、認知症以外の病気が隠れていることがあります。
徘徊に似たような症状(ウロウロと歩き回る)を引き起こすことが多い状態は主に3つです。
急な視力の低下・失明
緑内障や進行性網膜委縮など何らかの原因で急に視力を失った犬は、あちこち臭いを嗅ぎ回りながらウロウロすることがあります。徘徊と見分けるポイントは、「臭いを嗅ぎ回りながら歩き回る」そして「認知機能は正常である」の2点です。歩きまわっているときの様子を観察し、声をかけてみて反応するかどうかなどを観察してみましょう。
急に視力を失ったケースで多くみられる症状である一方、ゆっくりと進む白内障などで徐々に視力が低下したケースでは、あまりみられません。これは、視覚に頼らない生活に慣れていることが多いことが原因です。
平衡感覚の異常
中耳炎や脳の一部の異常などで平衡感覚に異常があると、本人は真っ直ぐ歩きたいのに歩けず、左右どちらか一方にクルクル回ってしまうことがあります。この場合は回ってしまう方向は一定であり、そちら側に首を傾けることが多いです(左にクルクル回るなら、左に首を傾けることが多い)。
また、認知機能はやはり正常に保たれています。歩き回っている方向が一定かどうか、首の傾きはないか、呼びかけなどには正常に反応するかどうかを観察するとよいでしょう。
神経症状の1つ
てんかんや、脳腫瘍、頭部損傷などで、俗に言う「神経発作」を起こした場合も徘徊に似た行動を示すことがあります。この症状の前後に、いわゆる「けいれん発作」を伴うこともあります。「けいれん発作」がみられた場合には認知症の「徘徊」とは異なります。
てんかんの前駆症状として落ち着かなくウロウロ歩き回るケースがあり、徘徊に見えます。しかし、てんかんの場合は、毎度同じように徘徊がおこるわけではありません。
一方で、必ずしも「けいれん発作」を伴うとは限りません。「けいれん発作」を伴わない場合、認知症と見分けるのが難しくなってきます。普段の認知機能が正常かどうかが、判別のヒントとなるでしょう。
犬の徘徊に対する4つの対応
「これまでに紹介してきたような、紛らわしい病気はなさそう。どうやら、本当に徘徊らしい」となったら、どうすればよいかをまとめています。ポイントは「徘徊をやめさせようとするのではなく、徘徊が人や犬の生活の質を落とさないように工夫する」という点です。「うまく付き合っていく」という意識でいるのがいいかもしれませんね。
1. 怪我を防止する工夫を!
まず徘徊をしている犬は認知機能が正常ではないことに加えて、からだの自由も効かない状態であることが多いです。徘徊中や転倒したときなどに犬が怪我をしないように、家具の角を丸めたり、突起には保護材をつけたりといった工夫をすることが必要です。
そもそも転倒をしづらいように、部屋の中の段差をなくすのも良い方法の一つでしょう。
2. 徘徊する理由を考えてみる
従来の考え方でいえば、徘徊は「何の目的もなく」歩き回るという症状でした。しかし近年では、徘徊している側にしかわからない何らかの目的・動機があるのではないか、という考え方に変わりつつあります。
たとえば、「認知症の症状として生じる、いいようのない不安を紛らわそうとしている」「自分がどこにいるのかわからなくなり、居場所を探している」「食事をしたことを忘れ、食べるものを探している」といったものです。
徘徊している犬に対して、安心させる工夫をしたり、少量のご飯を食べさせたりして徘徊がやむかどうか観察するのも大切です。
3. 行動範囲をコントロールする
思わぬ怪我を防止するために最も確実な方法は、行動範囲をコントロールすることです。行動させる範囲内は、徹底的に段差や突起物を排除しましょう。
また、夜間の徘徊によって家族の睡眠の質が下がっている場合は、行動範囲を制限することで家族の睡眠の質も保ちやすくなります。行動範囲をコントロールする際には四隅が存在しない環状サークルが便利です。
環状サークルは、柔らかめのお風呂のマットを数枚つなぎ環状したら自宅でも簡単に作成可能です。ぶつかっても、勢いでサークルと一緒に転んでも大けがにはなりにくいでしょう。認知症の犬は後ずさりができないことが多く、四角形のサークルだと角にはまり込んで動けなくなってしまうからです。
4. 動物病院で相談する
老犬の徘徊は家庭での対応が困難になることが多く、飼い主の生活に影響を与えることがあります。家庭内で何とか対策がとれている場合は良いのですが、徘徊がひどくなったり長期に及んだりすると家庭内では問題解決が難しくなります。
そのような場合は動物病院に相談し、最適な方法を見つけ出していきましょう。投薬治療や短期的な入院、現在家庭内で行っている徘徊対策の改良点など様々な観点からの相談が可能です。
一人で抱え込まず、専門家のアドバイスを受けながら最良の方法を見つけていきましょう。
まとめ
ウロウロと歩き回る様子が認められたときは、まずそれが本当に「認知症の徘徊」なのかを判断すべきです。この判断は難しいことも多いので、かかりつけの病院に相談するのも1つです。徘徊だと判断したあとは「徘徊とつきあっていく」という意識で、さまざまな対応をとりつつ、一緒に過ごしていけるとよいですね。